畔室長裏日誌

某写真系アトリエギャラリーを主宰しているsaorinです。乳がんを宣告されたのをきっかけに、個人的な日記が書きたくなって立ち上げました。主に乳がんの闘病日記と毎日のごはん簿をUPしていましたが、治療が落ち着いた今は登山・キャンプ・旅など趣味についても書いています。

乳がんをテーマにした写真展を見た話

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表現という自由な世界

先日たまたま見た写真展に、ちょっとした衝撃を受けました。
現在、銀座のソニーギャラリーで開催中の馬場さおり氏による「The View Through My Blood」です。

彼女は、大学院生時代に若年性乳がんを患い、手術、抗がん剤治療、放射線治療を経て現在回復しています。
会場内に展示されていた作品は治療中の身体の写真ではなく、「闘病生活の中で毎日の様に自身の血を目にした経験と、乳がん治療後、回復し元気になった今でも乳がんの細胞は血の中を巡っているという事実が、この作品の生まれた背景」とのことで、彼女の友人、知人たちを切り取った赤い(血をイメージしたであろう)作品たちです。

何が衝撃って、乳がんを自身の写真表現のテーマにしたこと。
自分だったら、きっと考えてしまうと思うんですよね。
例えば乳がんを展示のテーマにしたとして、この展示を見たいと思う人はいるのかどうか。
と考えてる時点で、私は根っからの表現者ではないのだなーと思います。
表現者は、少なくとも称賛や評価を求めるために表現するわけではないのだと、改めて実感しました。

撮るべき?いや、私はいいや

全く予備知識がないままこの展示を見たので、写真家のご本人のことを全く知りませんでしたが、会場内にブックがあったので見てみると、過去に「2.7%」というタイトルで写真展を開催していました。この2.7という数値は、若年性乳がんの罹患率です。
ブックには、病院のウィッグをかぶったマネキンの頭たちや、手術の胸の痕、抗がん剤で抜け落ちた髪の毛、つるっとした眉毛のカットなどが写真集のように編集されていました。
どのカットも、私も見覚えのあるシーンばかり。

撮るんだ、、、ええー撮るんだ!!

ブログに載せるために、スマフォで記録としては撮っていたけど、作品として残すために乳がん周りのあれこれを、カメラを持ち出してフィルムで(私はフィルムで撮るのが好きなので)撮る気には・・・正直ならなかったなー・・・

ただ、今の自分の状態は、確かに写真を撮る人たちが皆が体験できることではないので、撮っておくべきか?!と一瞬だけ思ったのですが。

いや、私はいいや・・・(笑)

まあ、今のつるっぱげ状態の私は、写真に撮っておこうかなとは思いましたが。

何のために展示するのか

昨年から、ウガンダ出身の先生に英会話を習っているのですが、彼女自身が写真展というものがどうも理解できないらしく、展示を見に来てくれるのはいいんだけど、毎回同じ質問をしてきます。

「What's the purpose?(目的は何?)」

特に写真を売るわけではないのに、なぜ写真展などというものを開催するのかわからないらしい。
確かに外国では、アート関係で展示をするということは、イコール作品を販売するということなので、“発表の場、ただ見てもらうだけ”、という展示は日本独自のスタイルかもしれません。

写真を撮ることが好きだから、展示も楽しいんだよ、ただ写真を見てもらうことがうれしいんだよ、と説明したのですが、意外に彼女の質問って、深いな。といまだにひっかかっています。何のためにって。何のためか。

今回、この乳がんがテーマに含まれた写真展をたまたま見て、この彼女の質問を思い出しました。何のために展示するのか。
「私の見ている世界を視覚化し、形に残すこと。そしてそれを通して、少しでも人々と繋がれるとしたら、それは、私の存在意義を再確認できるひとつの方法」

これが、馬場さおりさんの写真展をする目的。

写真展って、写真を通じて自身が見ているものや考えていること(被写体にシャッターを切った、その時の思いも含めて)を見に来た人に赤裸々に知ってもらうのが目的だとしたら、自意識を声高に発する手段だ。
おそらく、写真に興味がない人にはひどくわかりづらいだろうけど。